食う方 作る方 Part.2

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魯山人味道(北大路魯山人著/平野雅章編)

 先に紹介した辻静雄さんが作る方代表なら、食べる人の代表は明治から戦後を生きた北大路魯山人さんです。(以降敬称略)

 魯山人の名前を御存じなくても、『美味しんぼ』の海原雄山を御存じの方が多いかもしれません。
 海原雄山のモデルは魯山人で、雄山本人も海原雄山を目標にしている設定になっています。
 美食倶楽部を作ったのも魯山人ですし、作中に出てくる岡星という料理屋は、きっと魯山人が作った「星岡茶寮」をもじったものでしょう。
 もっとも魯山人もこの名前を谷崎潤一郎の小説『美食倶楽部』から無断借用したそうなので(谷崎版は中華料理)、孫借りとでも言うのでしょうか。

 雄山が美食倶楽部を作るのも、連載序盤でフランス料理の鴨をわさび醤油で食べたのも、食器にこだわるのも、すべて魯山人の影響です。
 最近の彼はすっかり人がまるくなりましたが、連載初期の雄山は魯山人かぶれだったのですね。

 さて、昔読んだ魯山人の著作をもう一度読み直してみると、改めて気が付くことがあります。
 食道楽の本として読んでいたのが、辻さんの本に接した事により、作る人と食べる人の違いというのが見られるのです。

 ざっくりと双方の考えを箇条書きにしてみましょうか。

 辻静雄(作る人)
・いわゆる家庭での料理上手が料理人になれる適正要素ではない。
・料理を学ぶためには自腹で美味しい高級な料理を食べなければならない。
・化学調味料は上手く使うようにする。
・最高級の素材で最高級の料理を作ってもお客さんが何度も食べに来られる価格で提供できないと商売としては成り立たない。

 北大路魯山人(食べる人)
・家庭料理が上手いと呼ばれる人間が料理上手というわけではない。
・料理を学ぶためには自腹で美味しい高級な料理を食べなければならない。
・化学調味料は味が均一になるので良くない。
・人に任せると原価やその他の要因で打算的な料理を食べなくてはならないので、自分で作るのが一番である。


 他にも双方の考えの違いはいくらでも挙げられますが、 リストアップすると割とくたびれるので、この辺でおしまい。

 ソースを活用するフランス料理界の辻静雄と、素材の持ち味を生かそうとする日本料理界の北大路魯山人とで、そもそも料理に関する概念そのものが違うのですが、全体的に見ると、辻は料理人として食べていく為の考えで、魯山人は美味しいものを食べる為の考えであるようです。
 お互い相反する立場ながら、
「会合や式典などで出される料理は付き合いも多く味なんてわからないので、自分のお金で自分の舌を鍛える事が必要。」
 という考えが割と近い共通認識となっていると言うのも興味深いですね。

 双方の人生には大きな差があり、辻静雄が多くの弟子を育て愛されながら亡くなったのに対し、魯山人は妥協を許さない性格と発言で友を多く失い孤独のうちに亡くなっています。
 母の不倫の結果で世に生まれ、父はそれを受け入れられずに自殺。
 出産後1週間も経たないうちに口べらしで外に出されてしまった彼には、家族が生み出す愛情と言うものも無かったのかもしれません。
  
 私自身魯山人が好きですし、あまりネガティヴな事を書いても皆さんが読んでいて面白くはないと思うので、最後に魯山人論を書き記します。

・食器は料理の着物である。いくら良い料理でも、食器や盛り付けがダメならそれはダメな料理となってしまう。
・例えば関西の鯛や関東の鮪など食材には良いものを取れる地域があるが、知識だけ詰め込んでも無駄である。
・野菜ひとつとっても、いくら名産地の物であっても鮮度が悪いのであれば、近所で採れる野菜の方が美味しい事も多々ある。
・自分の懐具合に合わせた食の楽しみ方がある。食材の良し悪しを見分ける力があれば、それなりに美食を楽しめる。
・料理が上達するために必要な素質は、「料理を楽しめる事」である。
・美味しく料理を食べるためにもっとも必要な要素は、空腹である。

 
 どれも、現代を生きる我々にも共通する魯山人論ではないでしょうかね。
 こういう考えを、グルメブームよりずっと以前に発言しているのですから、やっぱりこの人タダモノではないよなあと思うのです。

 ちなみに、魯山人の死因は肝吸虫による肝硬変。
 肝吸虫はコイやフナに寄生する虫なので、鯉のあらいでも食べて寄生されてしまったのでしょうか。
 美食に生き、美食に死んだ偉人のお話でございました。

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[ 2015/07/24 09:00 ] 日記 | TB(0) | CM(0)

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